二つの祖国 山崎豊子 [小説]
戦争の愚かさと、戦争が人間を愚かにさせることを思い知らされる。戦後生まれの人間にとって戦争の悲惨さは、間接的にしか分からないから想像するしかない。白人の人種差別も、日本人の村八分の感情も、陰湿で過酷だ。憎悪は判断力を鈍らせる。移民や日系二世の存在、強制収容所のことは何となく知っていたけど、アメリカからも日本からも疑惑の目で見られていたことは知らなかった。通訳として活躍していたことも知らなかった。多くの二世が日本とアメリカの間で過酷な判断を迫られていたのだろうと思う。家族離散というのは、戦争中は二世に限ったことではないだろうが、兄弟が互いに敵国の軍人として争わざるを得ないのはどちらの国籍も持っていた二世という特殊な立場に限られる。特攻が語られる場面では、今もイラクやパキスタンで続いている自爆テロと重なった。後半は東京裁判について語られている。ここで日本の策略、それぞれの思惑と食い違い、アメリカの策略があらわになってくる。人間性や生への執着が顕わになるのは、こういうときなのだろう。東京裁判については、不公平であったのは今となっては周知の事実だが、日本人でもやはり恨みをもって裁判を見ていた人はいたのだろうと思う。色んな圧力があって、自分の望まない言動をしなければならなかったり、様々な立場の人が様々な状況で戦争という得体の知れない化け物に脅されていた、そんな印象を受けた。8月に読むには最適の本だった。
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