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栄花物語 山本周五郎 [小説]

田沼意次の政策とそれに関わる武士たちとの攻防に、二人の青年がいつの間にか巻き込まれていく。
信二郎の言葉はメッセージ性が強く、何度か立ち止まった。
「おはまに限らず、人間のすることはみな同じさ、献身とか奉公とかいうが、それはそのことが自分を満足させるから、献身的にもなり、奉公によろこびを感じもするんだ、男と女の感情もそのとおり、相手が自分にとって好ましく、その愛が自分を満足させるから愛するのさ、―人間はつねに自己中心だし、自分ひとりだという事実も動かせやしない、おはまはそれが自分にとって満足だから、苦労もし金品を貢ぎ、貞操をまもった、おれは単にその対象にすぎないんだよ」
田沼意次の印象は、歴史で習ったときは思いっきり悪かったが、池波正太郎の「剣客商売」シリーズでは好ましい人間として描かれていたので、最近では実はそんなに悪い人じゃなかったのかなという風に思っていた。ただ具体的にはよく分かっていなかった。「武士は食わねど高楊枝」とも皮肉られた精神のもとにどうしようもなくなっていた武士の経済をどうにかしようと本当に考えていたのが田沼親子だったのだ。金銭は卑しいものであり、武士が卑しいものを扱うのは許されないという固定概念が松平定信にはあって、田沼意次の政策を理解できなかった。定信だけでなく、田沼ら以外には理解できる者がいなかった。それが彼らの悲劇だった。
「めぐりあわせが悪かったんだ。…はたしてそうだろうか。いやそうではない、そればかりではない。…人間と人間との交渉は、つねに他のなにかの支配を受ける。」

栄花物語

栄花物語

  • 作者: 山本 周五郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1972/09
  • メディア: 文庫


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