真実一路 山本有三 [小説]
誠実に生きているのに、事の成り行きとのすれ違いが起きる。「どうしてわかってくれないの」という子供の気持ちが胸に響いて痛い。純真で一生懸命だけれど子供にはまだ分からない大人の世界を不審に思い、説明されれば分かるかもしれないのに隠されているという事実に悔しい思いをしたりいろんな想像をしたりする。子供が「ひねくれる」ということは、子供自身はそんな言葉を考えているわけではないだろうけど「愚直」であるということなのかもしれない。一方で大人は子供を傷つけまいとしてつく嘘を、子供が成長するにつれてほころびが大きくなり、いつ本当のことを傷つけないように話せばよいか悩む。そしてまた大人の方が気持ちはストレートに表さないから大人同士でもそれぞれの思惑はすれ違う。普段の生活で、これに似たようなことは明らかにならないまましばしば起きている事なのだろうと思う。騙したり騙されたり、そんなつもりはないのに騙していると思われたり。「嘘」のやさしさと残酷さが描かれている小説。
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