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紀ノ川 有吉佐和子 [小説]

 女の力、というものを感じる。男の生き方にまで深く影響する、というよりも、潜在的な深いところで影響するのが女の力なのかもしれない。母親と娘という、嫁に出してしまえば切れてしまうかに見える、それでも互いに影響の大きい、いざとなったときには頼る、心の支えとなるつながりを根底に、大正から昭和、敗戦という時代背景の中で、家というものや結婚というものに対する価値観の移り変わりが描かれている。子供は必ずしも親の思う通りには育たない。それは遺伝にもよるだろうし時代背景にもよるだろうし環境にもよるだろう。それでも血のつながりというものを感じさせる。美しい嫁入りの風景や着物の描写にもうっとりしてしまう。

紀ノ川

紀ノ川

  • 作者: 有吉 佐和子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1964/06
  • メディア: 文庫


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庭仕事の愉しみ  ヘルマン ヘッセ [随筆]

 年取って、のんびり暮らすことができるような生活になったら、こんな暮らしもいいな、と思わせる随筆。日本ではちょっと風景が違うとは思うけど、ヘッセの詩と水彩画と一緒になって田舎の風景が頭に浮かぶ。自分で土いじりはほとんどしたことがないけど、親がしているのは時々見ていた。読んでいる間は土や草のにおいが漂ってくる気さえする。土や草のにおいは嫌いではないし、自然を好む日本人なら誰でも共感できる、園芸書というのとはちょっと違う哲学的なことも考えさせる随筆ではないかと思う。のんびり暮らすようになったらもう一度読み返したい。けど何十年後のことだろう?

庭仕事の愉しみ

庭仕事の愉しみ

  • 作者: ヘルマン ヘッセ
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 1996/06
  • メディア: 単行本


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二つの祖国  山崎豊子 [小説]

戦争の愚かさと、戦争が人間を愚かにさせることを思い知らされる。戦後生まれの人間にとって戦争の悲惨さは、間接的にしか分からないから想像するしかない。白人の人種差別も、日本人の村八分の感情も、陰湿で過酷だ。憎悪は判断力を鈍らせる。移民や日系二世の存在、強制収容所のことは何となく知っていたけど、アメリカからも日本からも疑惑の目で見られていたことは知らなかった。通訳として活躍していたことも知らなかった。多くの二世が日本とアメリカの間で過酷な判断を迫られていたのだろうと思う。家族離散というのは、戦争中は二世に限ったことではないだろうが、兄弟が互いに敵国の軍人として争わざるを得ないのはどちらの国籍も持っていた二世という特殊な立場に限られる。特攻が語られる場面では、今もイラクやパキスタンで続いている自爆テロと重なった。後半は東京裁判について語られている。ここで日本の策略、それぞれの思惑と食い違い、アメリカの策略があらわになってくる。人間性や生への執着が顕わになるのは、こういうときなのだろう。東京裁判については、不公平であったのは今となっては周知の事実だが、日本人でもやはり恨みをもって裁判を見ていた人はいたのだろうと思う。色んな圧力があって、自分の望まない言動をしなければならなかったり、様々な立場の人が様々な状況で戦争という得体の知れない化け物に脅されていた、そんな印象を受けた。8月に読むには最適の本だった。

二つの祖国〈上〉

二つの祖国〈上〉

  • 作者: 山崎 豊子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1986/11
  • メディア: 文庫


二つの祖国〈中〉

二つの祖国〈中〉

  • 作者: 山崎 豊子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1986/11
  • メディア: 文庫


二つの祖国〈下〉

二つの祖国〈下〉

  • 作者: 山崎 豊子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1986/11
  • メディア: 文庫


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アンナ・カレーニナ  トルストイ [小説]

 アンナ・カレーニナは理想の女性像だ。美しくて知性があって誇りがある。が、嫉妬というのはこんなにも人を変えてしまうのか、と驚く。特に後半では対比して描かれるもう一つのカップルが美しく見えてくる。どちらの女性も好ましい人物で、こんな風になれたらなあと思う。一人ひとりの心の動きが楽しめるのは、トルストイのすごいところなのかな。トルストイが好きになった本。でもその後「戦争と平和」を読もうとして挫折した。外国作品は訳によっても読みやすさや楽しめ方が左右されるし、社会背景がよく分からないと十分楽しめない。でもこの作品は社会背景が多少分からなくても、楽しめると思う。

アンナ・カレーニナ (上巻)

アンナ・カレーニナ (上巻)

  • 作者: 木村 浩, トルストイ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1972/02
  • メディア: 文庫


アンナ・カレーニナ (中巻)

アンナ・カレーニナ (中巻)

  • 作者: 木村 浩, トルストイ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1972/02
  • メディア: 文庫


アンナ・カレーニナ (下巻)

アンナ・カレーニナ (下巻)

  • 作者: 木村 浩, トルストイ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1972/02
  • メディア: 文庫


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複合汚染  有吉佐和子 [社会問題]

小説なのか、随筆なのか、何なのか分からない。読み進んでいくうちに、周りにあるもの全てが怖ろしいものに思えてきてしまう。公害を顧みることのなかった高度成長期を経て様々な病気や不具合が生じてきたからこそ、消費者の意識が高まったのかもしれない。もっと早く意識が高まっていたら、とは思うが、政府が国民の健康をどれくらい考えているか、この小説が出た頃と変わっているかどうかは疑問だ。最近のアスベストに関して考えてみても。一定期間を経てそのポストを外れれば、責任は負わずにすむ。役人には、権益は利用しても、面倒なことは見ない振りをする事なかれ主義な人が多いと感じるのは私だけではないと思う。
今はもっと安全な社会になっていると信じたい。が、危険なものはまだまだたくさん潜んでいる。自分だけ気をつけても体の中には有害なものが侵入してくる。まだ日本人の意識は低いんじゃないか、役人に頼りすぎ、信じすぎなのではないか、自分たちで何とかしようとする気持ちが少ないんじゃないか、と思う。この話は、女の人でないと書けないものなんじゃないかと思った。食料にしても洗濯にしても生活に密着しているから。横丁のご隠居さんとの会話が、より分かりやすい説明となり、ホッとさせたり笑わせたりする、けれども素朴な疑問が鋭い指摘であったりする。

複合汚染

複合汚染

  • 作者: 有吉 佐和子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1979/05
  • メディア: 文庫


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虹の解体  リチャード ドーキンス

 高校の物理で波動を習ったときに覚えた感動を、もう一度思い出し、さらに深い感動を味わった。光も音もこんな風に解体されるんだ、と。そして、感覚器と脳とのつながり、人間の脳というものの不思議さ、巧妙さを思い知り、私たちはいつでもバーチャルリアリティの世界にいるのと同じなのか、と驚嘆した。科学と「詩」は共存する。そして遺伝子のこと、生物の進歩ということ。私たちは変化に対して意義を見出そうとする。協力し合っている、とか、適応している、とか。それはある意味においては間違ってはいないかもしれないけど、生物はそんな地球規模の意志を持っていたりはしないのだ。そのこと自体はこの本を読む前から何となく自分で感じていたことだった。微生物が他の生物のために役に立とうと思って生きているとは思えなかったから。「利己的な遺伝子」を読んでいないので、その辺のことはそちらに詳しく書いてあるのかもしれない。ところどころ難しく感じるところはあったけど、科学に対する考え方、感動の仕方?を改めて認識した。

虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか

虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか

  • 作者: リチャード ドーキンス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 単行本


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学問のすゝめ  福沢諭吉 [教育]

「学問のすゝめ」は解説も含めいろんな本が出ている。文語文を読むのはちょっと理解しきれないところがあるかも、と思って、分かりやすそうなのを買って読んだ。実際分かりやすくてよかった。福沢諭吉ってやっぱりすごい人だったんだ、と今更ながらに感心する。あれだけ一方的に海外から色んなものを取り入れていて流されていた時代に、ちゃんと日本の誇るべきもの、西洋文化のおかしいところをちゃんと見ている。私学の精神というものはよく知らなかったが、なるほど、と思う。官の役割、私の役割、あるべき姿というものを示している。今の公務員も皆読むべきではないかしら。ただ、本文を読み終えたときの感想と、あとがきで慶応の実態?を読んだ後の感想はちょっと違う。福沢諭吉は結構いいかげんとか大雑把とか…。確かに、批判するときなど「ここまで言っちゃっていいのかなあ」と読んでるほうが余計な心配をしてしまったりするほど豪快なところもあって、まあそういうところが読んでいて面白かったりすっきりしたりするところでもあるけれど。今まで少し近寄りがたい存在だった人物像が、少し親しみの持てるものとなった気がする。

学問のすゝめ―人は、学び続けなければならない

学問のすゝめ―人は、学び続けなければならない

  • 作者: 福沢 諭吉
  • 出版社/メーカー: 三笠書房
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 単行本


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幸田文 [随筆]

どの作品もしゃきしゃきっとした語り口が気持ちよい。幸田露伴がどんな人だったのか、娘に対する教育がどんなものだったのかをうかがい知ることができる。掃除や料理に関しても、こんなふうにするのか、本来順序ってものがちゃんとあるんだな、と思う。今の人でちゃんと知っている人はほとんどいない(と思う)のは残念。近代化に伴って失われてしまった日本文化がたくさん描かれている。父親、弟の存在がこの人を作り上げている。小説にしてもこの人の生き方や考え方が大きく反映されていると思う。娘の青木玉や孫の青木奈緒も文章を書いている。まだ読んでいないけどいずれ読んでみたいと思う。

父・こんなこと

父・こんなこと

  • 作者: 幸田 文
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1967/01
  • メディア: 文庫


木

  • 作者: 幸田 文
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1995/11
  • メディア: 文庫


台所のおと

台所のおと

  • 作者: 幸田 文
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1995/08
  • メディア: 文庫


きもの

きもの

  • 作者: 幸田 文
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1996/11
  • メディア: 文庫


おとうと

おとうと

  • 作者: 幸田 文
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000
  • メディア: 文庫


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大変だァ  遠藤周作 [小説]

 これを読むまでは遠藤周作の作品は、「沈黙」をはじめとする少し重いキリスト教に関する小説しか読んだことがなかったから、題名からして軽妙で気軽に読めるんだろうなと思っていた。読んでいる間は面白く読んでいた。読み終わってから、これは結構深刻な話なんじゃないかと思った。大げさに茶化して面白くしてあるけど、食べ物から容易に体に有害な物質が入り込む危険性が指摘されていて、話の内容も、全く現実味がないことではない。もしかしたら近い将来起こることかもしれない。起こりつつあることかもしれない。実際環境ホルモンという目には定かに見えないものに、口からだけではなく様々な侵入経路で私たちの体は侵されつつあるのだから。

大変だァ

大変だァ

  • 作者: 遠藤 周作
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1973/10
  • メディア: 文庫


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数学嫌いの人のための数学  小室直樹

 そんなに数学が嫌いというわけではなかったけど、何となく気になって読んでみた。内容は数学というよりも、社会の成り立ちとかキリスト教の考え方とか思想の根本に関わることとか、もっと幅広い事柄だった。数学とキリスト教と論理とがこんな風に結びつくなんて。神との対立から論理が生まれ、数学を育てる。中国の議論とは根本的に方法が異なる。その論理と数学から資本主義経済が成り立つ。その論理が成立しにくい中国で資本主義経済がどれだけうまくいくかは分からない。とても読みやすく、なるほどそういうことだったのか、と納得することが多かった。高校の時くらいに教えて欲しかったなあ。そしたら苦手だった社会ももっと興味をもっていろんなことを勉強できたのに(今だから言える?)。

数学嫌いな人のための数学―数学原論

数学嫌いな人のための数学―数学原論

  • 作者: 小室 直樹
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2001/10
  • メディア: 単行本


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